面会交流の裁判例

東京家裁平成27年11月12日

第1 申立ての趣旨
申立人と未成年者らが面会交流する時期,方法などにつき定める。
第2 事案の概要
本件は,申立人が,離婚した元妻である相手方に対し,相手方が監護養育している申立人と相手方との間の長女及び二女である未成年者らとの面会交流を求める事案である。なお,申立人と相手方は,本件申立時においては別居中の夫婦であったが,本件審理終結前に協議離婚した。
第3 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和49年□月□□日生)と相手方(昭和47年□月□□日生)は,勤務先で知り合い,平成15年□月□□日婚姻の届出をし,平成16年□□月□日に長女Cが,平成19年□月□日に二女Dが,それぞれ出生した。
(2) 平成21年□月,申立人が脳腫瘍に罹患していることが判明し,申立人は,同年□□月,入院して手術を受けた。相手方は,申立人の入院を機に,未成年者らを連れて,相手方の実家で生活するようになった。
(3) 申立人は,平成21年□□月,退院し,平成22年□月には職場復帰したが,相手方は,同年□月□□日,自らを世帯主として,未成年者らとともに相手方の実家に住民票を移し,同年□月□日その届出を行った。
(4) 申立人と相手方は,別居解消,同居に向けて話し合い,相手方は相手方実家近くに住居を購入することを希望したが実現に至らず,申立人は住居の購入を待たずに同居することを提案したが折り合わず,別居状態が続いた。また,申立人の退院後も,未成年者らには申立人が入院中であると説明されていたこともあって,申立人と未成年者らとの面会交流が実現しない状態が続いた。
(5) 申立人は,平成25年□□月□□日,相手方に対し,夫婦関係調整(円満)調停事件(同年(家イ)第□□□□□号)及び面会交流調停事件(同年(家イ)第○○○○○号,同第○○○○○号。以下「本件調停事件」という。)の申立てをし,上記両事件について,平成26年□月□日から5回に渡って調停期日が開かれたが,同年□月□□日,合意の成立の見込みがないとして調停不成立となり,本件調停事件は本件審判手続に移行した。
(6) 平成26年□□月□□日,当庁家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)による未成年者らの状況調査の一環として,相手方宅における相手方及び未成年者らの面接調査が行われた(以下「本件調査」という。)。未成年者Cは,調査官に対し,申立人が退院できたと聞いてほっとしたこと,申立人が自分のことを覚えていてくれて嬉しいこと,ぼんやりとだが,顔が四角で,眼鏡をかけており,一緒によく遊んでもらったのを覚えていること,家の中でかくれんぼをした時,カーテンの後ろにクッションか何かを置いて人が居るように見せかけられ,申立人に「騙したー。」と怒ったことが楽しかったこと,家の中は狭いので,もう少し広いところで遊びたいこと,申立人が大丈夫であればバドミントンをしたいことなどを述べた。未成年者Dは,調査官に対し,申立人の記憶は全くないが,未成年者Cから眼鏡をかけているなどと話を聞いていること,退院できたと聞いたので,早く会って一緒に遊んでほしいこと,会った時は外でキャッチボールをしてみたいことなどを述べた。
未成年者らは,相手方宅において,相手方や相手方の両親とも親和し,特に問題なく生活している状況が確認されたほか,未成年者らが,申立人との面会,特に身体を使った交流を積極的に希望していることが確認された。
(7) 平成26年□□月□日,本件審判事件の第1回期日が開かれ,裁判所から,裁判所内(児童室)における試行的面会交流の提案がされ,次回期日までの間に試行的面会交流を実施することについて,申立人は賛同し,相手方は検討することになった。
第1回期日後,平成27年□月□日に裁判所内における試行的面会交流が予定されたが,直前に相手方が拒否したため実現せず,申立人からは,裁判所外における任意の面会交流を相手方に打診するとの意向が示された。
(8) 平成27年□月□日,本件審判事件の第2回期日が開かれ,同期日において,当事者双方は,同月□□日午後7時からFにおいて,相手方及び双方代理人1名ずつの立会のもと,申立人と未成年者らとの面会交流を行うことを合意した。
同月□□日の面会交流は約1時間レストランで会食する方法により実施された(以下「本件試行的面会交流」という。)。
(9) 平成27年□月□□日,本件審判事件の第3回期日が開かれ,本件試行的面会交流の実施が報告され,当事者間において次回期日までの間に2回目の面会交流の調整を行うこととなった。
(10) 平成27年□月□日,本件審判事件の第4回期日が開かれ,申立人は,期日間に相手方に対し2回目の面会交流についての提案を求めたものの相手方から提案がされなかった旨を報告した。しかし,同期日において,相手方は,同年□月□□日午前11時から,相手方立会のもと,申立人と未成年者らとの面会交流を行うことを提案した。
(11) 申立人と相手方は,平成27年□月□□日,協議離婚した。
申立人と相手方は,第4回期日における相手方提案を踏まえ,平成27年□月□□日午前11時から面会交流を行うことを合意したが,その前日,相手方は未成年者らが拒否していることを理由にこれを断ったため,面会交流は実施されなかった。
(12) 平成27年□月□日,本件審判事件の第5回期日が開かれ,当事者双方の審問が行われるとともに,次回に審理終結予定であることが告げられた。
相手方は,同月□□日,申立人に対し,面会交流の方法として,申立人とその両親,相手方とその両親及び未成年者らの計8名で,ホテルにおける昼食の会食を行い,以後,定期的に数回,同メンバーで会食を重ねるという提案をしたが,申立人はこれを拒否した。
(13) 申立人は,面会交流の方法及び内容について,申立人と未成年者らのみの面会交流とし,日時は,毎月第2土曜日の午前10時から午後6時までとし,引渡場所は,協議が調わない場合はE駅改札付近とし,午前10時に同改札付近において相手方が申立人に引き渡し,午後6時に同改札付近において申立人が相手方に引き渡す方法によることを希望した。
2 判断
(1) 父母が協議上の離婚をするときは,父又は母と子との面会及びその他の交流についての必要な事項は,その協議で定め,その協議が調わないとき又は協議をすることができないときは,家庭裁判所がその事項を定めることとされているところ(民法766条),非監護親の子に対する面会交流は,基本的には,子の健全育成に有益なものということができるから,これにより子の福祉を害するおそれがあるなど特段の事情がある場合を除き,原則として認められるべきものと解される。
(2) そこで,上記の観点から本件について検討するに,前記1認定によれば,申立人と相手方は,申立人の入院を機に別居となり,相手方とともに相手方実家において生活することになった未成年者らは,申立人が実際は退院した後も,申立人が入院中であるから会えないと説明されてきたために,面会交流が行われなかったものであって,面会交流が行われなかったのは未成年者らの福祉を害するような事情があったわけではなかったこと,そして,申立人が退院したと聞かされた未成年者らが,本件調査において,申立人の退院を喜び,申立人と会うことを望んでいることが確認されたことを踏まえて,本件試行的面会交流が実施されたこと,本件試行的面会交流は無事に実施され,未成年者らの福祉を害するような事情は何ら生じなかったことが認められ,これらに鑑みれば,本件において前記特段の事情があるということはできない。
したがって,申立人と未成年者らとの面会交流を実施することとして,その方法及び内容が検討されるべきである。
(3) この点,相手方は,申立人と未成年者らとの面会交流を実施すること自体には反対していないものの,その面会交流の方法として,前記1認定のとおり,申立人とその両親,相手方とその両親及び未成年者らの計8名で,ホテルにおける昼食の会食を行い,以後,定期的に数回,同メンバーで会食を重ねるという方法を申立人に提案した。しかしながら,その方法は,非監護親と未成年者らとの間の実質的な交流の実現という点からみると,極めて制限的であり相当でないといわざるを得ない。相手方がこれを過渡的な方法であると捉えているとしても,本件審判手続中に離婚した申立人と相手方が,互いの両親をも同席の上で未成年者らと会食をするという方法は,未成年者らにとって緊張を強いられる楽しくない経験になるおそれがあり,それがその後の円滑な面会交流を阻害するおそれもあるというべきである。
相手方は,上記方法を提案した理由として,未成年者らが申立人と未成年者らのみの面会交流を拒否していることを挙げ,前記1認定のとおり,平成27年□月□□日の面会交流は未成年者らの拒否を理由に実施されなかったものであるが,相手方の審問結果によれば,その際の未成年者らの反応は「あまり行きたくないな。」「前も言ったけど,あまり会いたくない。」というものであったというのであり,申立人を拒否する明確な意思があるとまでは認めがたい。前記1認定によれば,申立人は,未成年者Dにとっては記憶のない父であって未成年者Cから話に聞いていた存在ではあったものの,未成年者Cにとっては具体的な遊びの記憶とともに,肯定的な感情で記憶されていた父であったのであり,本件試行的面会交流の後に,申立人を拒否する明確な意思が生じたとは考えがたい。
(4) そこで,申立人と未成年者らとの面会交流の方法及び内容としては,別居前の父子関係,未成年者らの年齢及び負担,申立人の希望その他本件に現れた一切の事情を考慮し,1か月に1回,日帰りで行うこととし,その日時,場所,方法に関しては,相手方が申立人と未成年者らのみの面会交流を拒否していることに鑑み,相手方が本審判確定後にも任意に面会交流に応じない場合に強制執行がされる可能性を考慮し,面会の日時を毎月第2土曜日とし,面会の開始時刻を午前11時00分,終了時刻を午後5時00分とし,引渡場所は相手方宅の最寄り駅であるE駅改札付近とし,引渡方法は,開始時刻に同改札付近において相手方が申立人に引き渡し,終了時刻に同改札付近において申立人が相手方に引き渡す方法によることとして特定するのが相当である。
3 よって,主文のとおり審判する。